久しぶりの更新です! Pick Up MaestroシリーズのVol.3はラテンベースの礎を作った一人。 Bobby Rodríguezです。 ラテンの黄金期に膨大な音源を残していますのでその一部を紹介していきます。
Bobby Rodríguez(ボビー・ロドリゲス)のプロフィール
Roberto”Boby”Rodriguez(ロベルト・"ボビー"・ロドリゲス) (フロリダ州タンパ、1927年5月2日~2002年7月29日) キューバ人とプエルトリコ人の両親を持つBoby Rodriguezは、コントラバスおよびエレクトリック・ベースの最も重要なラテンベースの巨匠の一人です。 ニューヨークで17歳の時、Julio Andinoに代わってMachito&His Afro-Cubans Bandへ参加することでキャリアをスタートさせます。 そして、Dizzy Gillespie、Cal Tjader、Eddie Palmieri、Willie Bobo,Mongo Santamaria,Joe Cuba、Eric Dolphy、Alegre All Stars、Tiro Rodriguesなどのレコーディングに参加するようになります。 またCharlie Palmieri、Tito Puenteの最盛期といえる期間に長期に渡って携わっています。 ベースを弾きながら足でClaveを刻むというスタイルも彼の特徴ですね。 どんなフレーズからもクラーベを感じられるのはこれ故なのでしょうか。 そして、常にジャジーなフレイジングを用いているのも大きな特徴かと思います。 エレキベースを演奏する際には、ほぼ全て親指でピッキングしているのもユニークですね。 "Dedo Gordo(=親指)“というニックネームがあるのはこれ故です。 Baby Bassの音に似せようとこの奏法を用いているのかと思いますがエレキベースでラテンのグルーヴを出すのにこの奏法は欠かせないものだと思います。 (こちらの記事でこの奏法については紹介しています。)
Bobby Rodríguezの参加する名盤とそのベースライン
Tito Puenteとの作品
Tito Puenteの作品の中でも最も盛んな活動をしていた時期にBobby Rodriguezは多く参加しています。 作品の中で、数多くのトゥンバオのバリエーションを披露してくれていますが時折大変にメロディックで、クリエイティブなアドリブソロも行っています。 Tito Puenteとの活動は、1950年代から1990年代まで続けられました。
“Dance Mania”
“On Broadway”
“Mambo Diablo”
“Cuban Carnival”
“Salsa Meets Jazz”
“Goza mi Timbal”
“Descarga Tito Puente& Michel Camilo
Montreal Jazz Festival”
”Ode to Cachao”でのベースソロ
1990年のアルバム"Goza Mi Timbal"の"Ode to Cachao"という曲はBobby Rodriguezのソロがたっぷりと演奏されています。 Israel López Cachaoへの敬意と共に、Bobby Rodriguezの素晴らしいラテンジャズへのアプローチを披露しています。 3つのパートでベースソロが弾かれているのと、ソロ的なモントゥーノのパータンを紹介します。
Bass Solo 1
1:06〜からの最初のベースソロのセクションです。 アルペジオを中心としたジャジーなソロですね〜
Bass Solo 2
2:41〜の2回めのBass Soloパートです。 2拍3連を用いたフレーズが多用されていきよりラテン感が増しています。
BreakでのPiano Montunoっぽいフレーズ
3:40〜のセクションは、Bass Solo 2の後のブレークでPiano Tumbaoのブレークのようなフレーズをベースで弾いています。 開放弦を上手く使ったフレージングで面白い響きになっていますね。 後のMamboのセクションもこのフレーズを引き続き弾いています。
Bass Solo 3
4:36〜は最後の3回目のベースソロです。 冒頭は、今までで一番高い音域を使った早いパッセージで盛り上げています。 全体にレイドバックした歌いまわしなのでよく音源を聞いて参考にしてみてください。
Tito Puenteの作品でのBass Tumbao
“Tim Mom Bo”
ご機嫌なCha-Cha-Chaのリフです。 全編こちらのリフを弾いています。
”3-D Mambo”
1:33〜のTumobaoです。 "3-D Mambo"は、キューバのリズムや楽器、モダンジャズのハーモニーを管楽器で表現した素晴らしい曲です。
譜例のトゥンバオの6音目(2小節目の1拍目の8分裏)には特に注目してみましょう。 この音はRumbaで演奏されるコンガのうちQuinto(キント)のリズムです。 一般的なトゥンバオにはないシンコペーションとルンバのテイストが加わった特徴的なトゥンバオです。
※Quinto(キント) ルンバの演奏で使用されるリードパートにあたる最も高音のコンガです。 こちらのwikiの記事を参照してみてください。 譜例の上部のフレーズがQuintoのフレーズです。 このフレーズはクラーベを半拍ずらした位置からスタートさせたフレーズになっています。
ハーモニー的には、2つ目のクラーベの5音目(3小節目4拍目8分裏)のBナチュラルの音はG7の3rdとなります。 このトライアドの転回型は、クラシック音楽ではよく見られるが、ジャズではこの時点ではまだ珍しく、後に様々なジャンルで非常に重要な意味を持つようになります。
“Cuando te vea”
"Cuando te Vea"は、当時において最も重要なラテンヴォーカリストの一人であるSantos Colonの素晴らしい歌声をフィーチャーしています。 譜例は3:19〜のものです。 この曲でのBobby Rodriguezのトゥンバオは、上記譜例のような4種類の2クラーベ毎に変化させているベース・トゥンバオをループさせた練習の題材にもしやすい曲です。 以前に記載したClave Neutralの分類を各々のフレーズに記載しておきました。 2段目を除いて Habanera(Anticipated Single-Ponche)→ Habanera(Anticipated Double-Ponche)→ Tresillo(Anticipated Single-Ponhe ただし8分でAnticipated)→ Habanera(Anticipated Single-Ponche) の繰り返すパターンになっています。 フレーズの分析にもこの方法は便利ですね〜
“Hong Kong Mambo”
Hong Kong Mamboは、Tito PuenteがMarimbaを演奏してます。 この曲でのトゥンバオのフレーズはTitoのMarimbaのテーマとユニゾンになっているので、ベースのトゥンバオもTitoの考案と思われます。 これはクラーベに沿ったフレーズになるので、Clave Neutralによる分類はできません!
“Llegó Miján“
“Llegó Miján”の1:58〜のTumbaoはGeneric Tumbaoの中でも最もレアなパターンである Bolero(Anticipated Double-Ponche)です。 Funkyな感じですよね〜 譜例の3小節目裏のAの音を省略するとこのパターンの純粋な形になります。
“Mi Chiquita Quiere Bembe”
”Mi chiquita quiere bembe”の2:30〜の部分の採譜です。 この曲は4/4と6/8の間でビートが切り替わっていきます。 テンポは2倍となり、1拍の分割数は4から3へと変化していきます。 この辺りは6/8拍子について書いた過去の記事を参照してみてください。
Machito and his Afro-Cubansとの作品
Machitoのバンドの出身者にはたくさんの偉大なミュージシャンがいます。 Tito Puente、José Mangual、Julio Andinoなどなど… そしてこの記事で紹介している最高のベーシストBobby Rodriguezもこのバンドの出身者です。
“Relax and Mambo”
“Kenya”
“Blen Blen Blen”
Machito and his OrchestraでのBass Tumbao
“Cubop City”
Guarachaのバリエーションのようなベーストゥンバオです。
“Vacilando”
“Mambo Mucho mambo”
1:37〜のトゥンバオです。 ファンキーでかっこいいですねー
“Mamboscope”
1:13〜のトゥンバオです。 前半のテーマ部はGuaracha、トランペットソロ部分はTresilloとGeneric Tumbaoを弾いた後にこのフレーズが出てきます。
The Alegre All Starsでの作品
1961年に始まったこのグループは、6枚のアルバムを発表しています。 このグループは、 フルート奏者のJohnny Pacheco 歌手のRudy Calzado ティンバレス奏者のFrancisco "Kako" Bastar 伝説のトロンボーン奏者Barry Rogers。 ベーシストのBobby Rodriguezらが参加していました。
“The Alegre All Stars Vol.1”
“El Manicero – The Alegre All Stars Vol. 2”
“Lost And Found – The Alegre All Stars Vol. 3”
“Way Out – The Alegre All Stars Vol. 4”
“They Just Don’t Makim Like Us Any More”
“Perdido”
The Alegre All StarsでのBass Tumbao
“Estoy buscando a Kako”
ここでとりあげた、 "Estoy buscando a Kako” という曲では、 「Estoy buscando a Johnny Estoy buscando a Bobby Estoy buscando a Charlie Estoy buscando a Kako」 というように、 「Estoy buscando a 〇〇=〇〇はどこ?」 というCoroでバンドの各メンバーを探す歌詞のコーラスの終わりにユニゾンでブレイクしてそのプレイヤーのソロが始まる… というシンプルですが面白いアレンジです。 各人のソロは4クラーベずつで構成され、同じフレーズで終わらせています。 譜例は、1:04〜の箇所です。 Coroで”Estoy buscando a Bobby”と歌うところから始まりBobby Rodriguezのソロの終わりまで採譜してあります。 美しいフレーズのソロは、曲のキャッチなフレーズである「donde esta=どこだ?」という歌のメロディのフレーズを引用したダブルストップで終わっています。 最初のピックアップのフレーズは、いわゆるバップフレーズと呼ばれるようなビバップのボキャブラリーのフレーズです。 ピックアップで弾いたそのバップフレーズの最後の部分をモチーフにして、ソロ全体を構築していっています。 そして、最後のフレーズでアレンジのテーマに戻るまで、全て冒頭のモチーフを発展させていったものとなっているのが譜面で見るとわかると思います。
その他の参加作品
ほかも色々と膨大なレコーディングがあるのですが、代表的なものだけピックアップしていきます。
“Acid” Ray Barretto
“Acid”
Boogalooが流行している最中だった1968年に発表されたこちらのアルバムののタイトル曲は、Bobby Rodriguezのベースラインを中心にしたベーシックなDescargaです。
“Son Con Cuero”
“Echando Pa’Lante” Eddie Palmieri
“El Sonido Nuevo” Cal Tjader & Eddie Palmieri
“Picadillo”
“Afro” Dizzie Gillespie
“A Night in Tunisia”
Dizziy Gillespieの作品にも参加しているものが多くあります。 "チュニジアの夜"をAfroで演奏しているこちらでのBobby Rodriguezの演奏も秀逸です。
“Live at the Red Garter Vol.1” Fania All Stars
“Live at the Red Garter Vol.2” Fania All Stars
“El Pirata Del Caribe” Joe Cuba
“Ritmos y Cantos Callejeros”
Cortijo y Kako y sus Tambores
ということで、久しぶりの更新はラテンベーシストのマエストロのBobby Rodriguezを紹介した記事でした。 名盤、名演が数え切れないほどあるのですがこれくらいで今回はこれくらいまでで。 またラテンベースの記事も更新を続けていきたいと思います。
ラテンベース入門「Clave Neutralの全パターンまとめ」
前回までに紹介したClave Neutralの4パターン×4バリエーションをここでまとめて見たいと思います。 4パターン Tresillo(トレシージョ) Habanera(ハバネラ) Guaracha(ワラチャ) Bolero(ボレロ) 4バリエーション Unanticipated-Single-Ponche Unanticipated-Double-Ponche Anticipated-Single-Ponche Anticipated-Double-Ponche このそれぞれのバージョン合計16種類となるわけです。
Tresillo(トレシージョ)
Unanticipated-Single-Ponche
Unanticipated-Double-Ponche
Anticipated-Single-Ponche
Anticipated-Double-Ponche
Habanera(ハバネラ)
Unanticipated-Single-Ponche
Unanticipated-Double-Ponche
Anticipated-Single-Ponche
Anticipated-Double-Ponche
Guaracha(ワラチャ)
Unanticipated-Single-Ponche
Unanticipated-Double-Ponche
Anticipated-Single-Ponche
Anticipated-Double-Ponche
Bolero(ボレロ)
Unanticipated-Single-Ponche
Unanticipated-Double-Ponche
Anticipated-Single-Ponche
Anticipated-Double-Ponche
Clave Neutralのまとめ表
表でまとめてみました。 とりあえず、4拍目は必ず演奏しているわけですね。 それぞれの違いをこれで確認してみましょう。
クラーベの向きに関わらず使用できるClave Neutralのフレーズはここまで一通り紹介してきました。 残りのClaveの向きに沿ったトゥンバオのフレージング、 「Clave-Aligned」はClave Neutralよりもファンキーでリズミカルなフレージングが多くあります。 SalsaやCharanga、Sonなどでも時折見られますが、TimbaやSongoなどの現代のキューバ音楽のスタイルではとても頻繁に用いられます。 しかし、これらのトゥンバオをClave Neutralのように簡単にまとめることが困難です…! それぞれの曲のアレンジやアンサンブルに沿ってできあがっているものも多くこれとまとめることが難しいです。 とういことで、ケースごとに沿って少しずつ紹介していければと思います。
ラテンベース 入門「クラーベに左右されないTumbao〜Clave Neutral その4 ADP〜Anticipated Double-Ponche」
4パターン×4バリエーション=合計16種類のトゥンバオ。
いよいよ最後のバリエーション
「Anticipated-Double-Ponche」
について書いていきます。
Anticipated-Double-Ponche(ADP)
「Anticipated-Doube-Ponche」(または「ADP」) は前回の記事で紹介した 「Anticipated-Single-Ponche」の4拍目を2音に変化させたものになります。 もしくは、Unanticipated-Double-Poncheの4拍目をタイさせたものとも言えます。 このADPは、4拍目の2音がコンガのトゥンバオのパターンにと完全に一致するので最もフィットしていると言えます。 そんなこともあり非常に使い勝手が良いバリエーションです。
Tresillo(ADP)
Tresillo(ADP)のパターンは中心的なパターンに用いても、バリエーションとして用いても非常に耳馴染みがよいパターンです。 実際のコード上で演奏すると下記のようなトゥンバオになります。
下記の音源などでこのパターンを用いたトゥンバオが聴けます。
Habanera(ADP)
Habanera(ADP)のパターンも中心的なパターンとしても、バリエーションとしてもよく用いられます。 実際のコード上で演奏すると下記のようなトゥンバオになります。
下記の音源などでこのパターンを用いたトゥンバオが聴けます。
Guaracha(ADP)
Guaracha(ADP)のパターンは、実際のコード上で演奏すると下記のようなトゥンバオになります。
Guacacha(ADP)のパターンはアレンジの最後の場面で弾かれたり、ソロで弾かれたりすることが多いです。
つまり盛り上げどころで弾くケースが多いです。
ピアノとユニゾンでこれを弾くと更にエネルギーのあるパターンとなり一部のミュージシャンはこのパターンを"Montado"と称します。
また、1950年代のチャランガで使用される下記のようなパターンもMontadoと呼ばれることもあります。
下記の音源などでこのパターン=Guaracha(ADP)を用いたトゥンバオが聴けます。
Bolero(ADP)
実際のコード上で演奏すると下記のようなトゥンバオになります。
Bolero(ADP)のパターンは、Bolero(UDP)のパターンと同じくなのですが、これが弾かれているパターンはなぜかあまりありません… Bolero(UDP)は繰り返して弾いていると少し慌ただしいフィールがありますが、このBolero(ADP)はファンキーで自然なフィールに聞こえます。 少し挑戦的な音使いとはなりますが選択肢に入れておいても良いと思います。
下記の音源などでこのパターンを用いたトゥンバオが聴けます。
ということで、ここまでで 4パターン×4バリエーション=合計16種類のトゥンバオ。 全てを解説してきました。 Tresillo(トレシージョ) Habanera(ハバネラ) Guracha(ワラチャ) Bolero(ボレロ) の4パターン Unanticipated-Single-Ponche Unanticipated-Double-Ponche Anticipated-Single-Ponche Anticipated-Double-Ponche の4バリエーション 次の記事で一覧でまとめてたものを記載しようと思います。
ラテンベース 入門「クラーベに左右されないTumbao〜Clave Neutral その3 ASP〜Anticipated Single-Ponche」
4パターン×4バリエーション=合計16種類のトゥンバオ。 この中で4パターン Tresillo(トレシージョ) Habanera(ハバネラ) Guracha(ワラチャ) Bolero(ボレロ) そして、バリエーションのうちの2つ。 Unanticipated-Single-Ponche Unanticipated-Double-Ponche を紹介してきました。 基本形の「Unanticipated-Single-PoncheのPonche」の部分を変化させたのが 「Unanticipated-Double-Ponche」 というわけですが、 今回は、前半部分の”Unanticipated”→”Anticipated” と変化させたバリエーション Anticipated-Single-Ponche について解説していきます。
Anticipated-Single-Ponche
「Anticipated-Single-Ponch」または「ASP」はUSPの4拍目の音が次の小節の1拍目にタイしています。 このように最後の4拍目の音にタイをでつなげているバリエーションをAnticipatedと称します。 ハーモニックでリズミカルなアンチシペーション(Anticipation,先行音)は、Afro−Cuban音楽の重要な特徴です。 ベースのトゥンバオでのAnticipatedは、他の音楽のベースラインとラテン音楽のベースラインの最もわかりやすい違いであると思います。
Tresillo(ASP)
「Tresillo ASP」は、サルサやキューバ音楽において最も有名なベースラインです。 このリズムを使用して、数えきれない程のトゥンバオが作成されました。 このリズムは多くの人がアフロキューバンベースの演奏の基礎と考えています。
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
Habanera(ASP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
Guaracha(ASP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
Bolero(ASP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
「Anticipated」のバリエーション1つ目の「Anticipated-Single-Ponche(ASP)」ついて書いていきました。 残す一つのバリエーション「Anticipated-Double-Ponche(ADP)」については次回の記事で解説していきます。
ラテンベース 入門「クラーベに左右されないTumbao〜Clave Neutral UDP〜Unanticipated Double-Ponche」
Clave Neutralの4つのバリエーションについて書いていきたいと思います。 これらのバリエーションはコンガのトゥンバオとベースのトゥンバオ関連性によって分類していきます。 Son(ソン)やSalsaなどにおいて、ベースとコンガの密接な結びつきを感じることはグルーヴを感じるために非常に重要な要素となります。 コンガのトゥンバオには沢山のバリエーションがありますが、大きく2つに分けてクラーベの向きによって作られるフレーズとクラーベに左右されないフレーズあります。 今回はClave Neutralなベーストゥンバオについてのフレージングについての考察ですので、 コンガのトゥンバオも同様にClave Neutralとなる1小節でのMarcha(マルチャ)と呼ばれるパターンを紹介します。
Marcha(マルチャ)のConga Tumbao
ベーシストにとって、コンガのパターンの中で重要な打点は3つ。
Slap(スラップ)
Bombo(ボンボ)
Ponche(ポンチェ)
と言われるアクセントです。
Slap(スラップ)
Slap(スラップ)は各小節の2拍目に付くアクセントでとても重要な箇所です。
Bombo(ボンボ)
Bombo(ボンボ)は2拍目の裏のアクセントです。
Bomo(ボンボ)のアクセントはクラーベの3サイドの2つめの音の位置にありますが、2サイドでも出てくるアクセントになります。
コンガのMarcha(マルシャ)に当てはめるとこの部分になります。
Ponche(ポンチェ)
Ponche(ポンチェ)は、4拍目にあたる部分です。 コンガやベースを含む多くのパターンでは各小節のPonche(ポンチェ)…つまり4拍目にアクセントがあります。 Ponche(ポンチェ)はアンサンブル全体で演奏するアクセントであったり、ブレイクする箇所だったりします。
Marcha(マルシャ)のパターンですとこのようになります。 Ponche(ポンチェ)は、ベースがコンガと実際に音が重なる場所となります。 この記事のシリーズで紹介している4パターン×4バリエーション全てのベースラインは、 Ponche(ポンチェ)のアクセントの一つまたは両方をヒットしています。 今回の記事で説明するバリエーションは、Ponche(ポンチェ)との関係によって定義しています。
ベースラインとPonche(ポンチェ)の関係性
ここではTresilloのパターンを例示しました。 最初のパターンは前回の記事で紹介した最も基本的なパターンです。 譜例を見ての通り、このベースラインの3番目の音符は、コンガの最初のPonche(ポンチェ)と並んでいます。 4拍目を1つだけ弾くこのパターンを 「Unanticipated-Single-Ponche」または「USP」と呼びます。 そして、このPonche(ポンチェ)の部分を2つの部分で同時にヒットするトゥンバオをDouble–Ponche(ダブル・ポンチェ)と称します。 Double-Ponche(ダブル・ポンチェ)の トゥンバオはコンガと同じリズムを弾くのでタイムの位置を示すのに有用な効果があります。 これを使った「Unanticipated-Double-Ponche」または「UDP」と呼ぶバリエーションをこの記事では紹介していきます。
4つのパターンでのUnanticipated-Double-Ponche(UDP)
Tresillo,Habanera,Guaracha,BoleroとそれぞれのパターンでのDouble Ponche(ダブル・ポンチェ)を例示していきます。 ということで、4拍目のPonche(ポンチェ)部分の8分音符を2つ弾くパターンを4つのパターンそれぞれにあてはめます。
Tresillo(UDP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源でこのトゥンバオを実際に使用した例が聴けます。
Habanera(UDP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源でこのトゥンバオを実際に使用した例が聴けます。
Guaracha(UDP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源でこのトゥンバオを実際に使用した例が聴けます。
Bolero(UDP)
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。
下記の音源でこのトゥンバオを実際に使用した例が聴けます。
というように、Double-Poncheでのバリエーション
「Unanticipated-Double-Ponche(UDP)」
について書いていきました。
残すバリエーションは2つ。
次回の記事では「Unanticipated」ではなく「Anticipated」のバリエーションについて書いていきます。
ラテンベース 入門「クラーベに左右されないTumbao〜Clave Neutral その1 USP Unanticipated-Single-Ponche」
ラテン音楽はクラーベに基づいてできています。 その中で言うとベースラインは主に2つに分類されます。 一つは″Clave Aligned″ クラーベの向き(2-3or3-2)に沿ったフレージングです。 もう一つが″Clave Neutral″ クラーベの向きに左右されないフレージングとなります。 ここではClave Neutralのトゥンバオについて書いていきます。
Clave Neutralでのトゥンバオ
ラテン音楽の中で圧倒的な多数を占めているベースラインは「Clave Neutral」です。 これらのトゥンバオはどちらの向きのクラーベにもフィットします。 Afro Cuban音楽とサルサにおいて、一般的なClave Neutralでのトゥンバオには4つのパターンがあります。 これらについてはKevin Mooreの著書「Beyond the Salsa」で体系化に記されています。
Beyond Salsa Bass: The Cuban Timba Revolution – Latin Bass for Beginners
価格¥3,410
著Moore, Kevin
発行Createspace Independent Publishing Platform
発売日2013/03/24
彼の本で使用されている命名法は非常に上手いもので、これを言い換えるは難しいです…。 したがって、このBlog記事で使用されている用語は「Beyond the Salsa」から引用しています。 4つのトゥンバオのフォームはアクセントの配置が異なるだけで非常によく似ています。 しかし、これらの微妙な変化がリズミカルな動きに大きな変化をもたらします。 これらにそれぞれ4つのバリエーションがあり、4パターン×4バリエーション=合計16のリズムの組み合わせができます。 ということで、4つのClave Neutralでのパターンを紹介します。
4つのトゥンバオのパターン
ここからClave Neutralのパターンを紹介していきます。 これらに関している名称はラテン音楽で使われる音楽スタイル・ジャンルとして知られている名前です。 しかし、ここでは単純にトゥンバオのリズムパターンの名称として提示していますので誤解なきようにしてくださいませ!
Tresillo(トレシージョ)
Tresillo(トレシージョ)は、最も一般的でよく知られているトゥンバオのバリエーションだと思います。 ほとんどの人が学ぶ最初の「ラテンベースのパターン」です。 このBlogでもこのパターンがラテンベースの大半だというように紹介しました。 Tesillo(トレシージョ)と同型のリズムは、アメリカのポップスやセカンドライン、Rumba-Flamenco、バルカン音楽、アラビア音楽、Afro-Brazilian、カントンブレ、およびアフリカ音楽の影響を受けた多数の音楽スタイルに同型のリズムが見られます。 言ってしまえば、あらゆる音楽で使われている汎用的なリズムの一つかもしれません。
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。 下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
Habanera(ハバネラ)
Habanera(ハバネラ)のパターンは、前述のTresillo(トレシージョ)に非常に似たパターンです。 違う点は、2拍目の裏と3拍目のビートの間のタイがなくっている箇所です。 Habanera(ハバネラ)もTresillo(トレシージョ)と同様に、レゲエ、レゲトン、ソカ、バチャータなど他のアフリカ由来のスタイルに同型のリズムがあります。
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。 下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
Guaracha(ワラチャ)
Guaracha(ワラチャ)はソン・モントゥーノによく似たキューバ音楽のスタイルから名付けてられています。 (音楽スタイルとしてのGuarach(ワラチャ)についてはこちらの記事でも紹介しています。) このベースのリズムは、Son、Mambo、Cha Cha Chaなど多くのスタイルで同様のパターンが使用できます。 2拍目の音符は、コンガのスラップを模倣しています。 これによりベースラインに軽快な躍動感が与えられます。 これが、他のトゥンバオのパターンと異なるフレーバーとなる非常に効果的な要素です。
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。 下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
Bolero(ボレロ)
Bolero(ボレロ)も通常の音楽スタイルにちなんで命名されています。 (音楽スタイルとしてのBoleroについてはこちらの記事で紹介しています。) しかし、ベースのパターンと同型のリズムは音楽スタイルとしてのBolero(ボレロ)に限定されて使用されるものではなく、 キューバ音楽の中でも特に古いチャランガのスタイルでは一般的に使われています。 更にこのリズムとそのバリエーションは、Songo(ソンゴ)、Timba(ティンバ)、そしてブラジル音楽のAfoxe(アフォシェ)などモダンな音楽スタイルで積極的に取り入れられています。
実際のコード上で演奏するとこのようなトゥンバオになります。 下記の音源などでこのトゥンバオが聴けます。
ということで、
Tresillo(トレシージョ)
Habanera(ハバネラ)
Guaracha(ワラチャ)
Bolero(ボレロ)
という4パターンのトゥンバオのリズム型をまず紹介しました。
これが基本形となりさらにそれぞれに4つのバリエーションがあり合計で16のパターンができあがります。
この基本形は
"Unanticipated-Single-Ponche"=USP
と称していきます。
Tresillo(USP)と記載していたらここで紹介している基本形のTresilloのパターンとなるわけです。
ということで、次回以降の記事でこのバリエーションについて紹介していきたいと思います。
ラテンベース入門 【Pick Up Maestro】 Vol.1 Israel Lopez”Cachao”
ラテンベース入門シリーズですが、「Pick Up Maestro」ということで、 レジェンドベースプレイヤーの紹介、解説をしていきたいと思います。 第一弾はラテンベースの最重要人物として異論は恐らくどこからもないでしょう。 Israel Lopez"Cachao"(イスラエル・ロペス・カチャオ)です。 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブでも知られているでしょうし、 2020年のRolling Stone誌「史上最高のベーシスト50選」にも28位でランクインしていました。 欧米のプレイヤーが並ぶ中で中々の快挙だと思います。
Israel Lopez”Cachaoのプロフィール
1918年、キューバの首都ハバナ生まれ。 2008年に89歳でお亡くなりになっています。 音楽家一家の生まれで10代の頃からベース奏者として地元オーケストラで活躍していました。 1930年代後半、兄Orestes Lopez(オレステス・ロペス)とともにMambo(マンボ)のリズムを確立し、後の様々なラテン音楽やジャズなどにも大きな影響を与えました。 1962年にへアメリカへ渡り、Tito Puente(ティト・プエンテ)や、Eddie Palmieri(エディ・パルミエリ)、Machito (マチート)、Gloria Estefan(グロリア・エステファン)等など数々のラテンスターと共演していました。
Israel Lopez”Cachao参加する名盤
Cachaoの参加作品は膨大にあるので僕のお気に入りをとりあえず紹介します。
“Master Sessions Volume1”
「Cuban Jam Session In Miniature”Descarga”」Cachao
Cuban Jam Session Vol.1
Cuban Jam Session Vol.2
この "Cuban Jam Sessions"のシリーズが最もプレイヤー的には有名なものだと思います。 アフロ・キューバン音楽をジャズの様な即興を主体としたフォーマットで演奏することを、積極的に行っていました。 これが現在のアフロ・キューバン・ジャズの基本となっていると言えます。
“Mi Tierra”Gloria Estefan
Buena Vista Social Club
特徴的なベースライン
“Descarga Cubanas”
Descarga(デスカルガ)とはジャムセッションのことです。 2-3クラーベに綺麗にハマったCachaoの印象的なフレーズからセッションは始まっています。 これはCachaoのリフの中でも最も有名なものの一つです 様々な曲でこのフレーズは拝借されていますので、ぜひ覚えておきましょう。
Goza Mi Trompeta
こちらもテーマと一体となり、クラーベに沿った印象的なリフです。
“Gandinga,Mondong y Sandunga”
これも有名なリフでいろいろな場面で使われます。 イントロにベースソロがあってからの1:17〜リフがはじまります。 ポリリズミックなリフで難解ですが、自然に弾けるようにしていきましょう。
Soloなど
“Al Fin Te Vi”
ボーイングによるメロディ演奏も大変素晴らしいです。 こちら"Al Fin Te Vi"はパキート・デリヴェラのクラリネットとのデュオです。
エレベ2本で僕が自粛期間中に演奏してみた動画もあげてみたりしました。
“Descarga Cubana” Bass Solo
ベースソロもリズミックで素晴らしいです。 上記の動画に譜面を載せています。 是非参考にしてみてください。 別の記事でもっと詳細にソロの分析なども行っていければと思います。
ということで、ラテンベーシストのマエストロの紹介記事でした。 引き続き他のプレイヤーも取り上げていきたいと思います。 簡単な紹介しかできなかったので、Cachaoについても今後更に取り上げて行ければなと思っています。
新ネタ購入 ”Beyond Salsa Bass Volume 1/For Beginners from Changüí to Son Montuno”
Beyond Salsa Bass: The Cuban Timba Revolution – Latin Bass for Beginners
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著Moore, Kevin
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発売日2013/03/24
久しぶりに教則本購入。 以前に購入したJohn Benitezの教則本でもこの本からの引用が多くありましたので気になっていました。 ビギナー向けということですが、在米のミュージシャンの評判がとてもよかったので買ってみました。 意外となかったキューバ音楽の歴史を辿りつつ、ベース・トゥンバオについての解説があり面白そうです。 よくベースのトゥンバオを始める際に基本のラインとなる下記のようなラインをやると思うのですが…
これが基本という訳ではなく、4つのタイプに分類しています。 ・Bolero ・Tresillo ・Havanera ・Guaracha これを更に Unanticipted-Single-Ponche Anticipated-Single-Ponche Unanticipted-Double-Ponche Anticipated-Double-Ponche という 4×4=計16種類のバリエーションで分類していきます。 確かにこれで分類できるんですよね〜 なかなかこういう視点はなかったです。 そして、ベーストゥンバオの歴史についてこれだけしっかり書かれているもの今までなかったなーと思います。 という感じで、ちょっとしっかり熟読してみたいと思います。 続編も少しずつ買い足して行きたいところです。
ラテンベース 入門「Guaracha(ワラチャ)のベースの発展」
Guaracha(ワラチャ)のベースの基本的な例を前回の記事で取り上げました。 今回の記事ではGuaracha(ワラチャ)のベースラインを発展させて行きたいと思います。 発展させていく過程でより理解が深まっていくと思います!
基本のベースラインの音数を増やす
こちらが基本のベースラインです。 まずはこれの音数を増やしていきます。
Ex.1の4拍目を8分音符2つに分割しています。
更に1拍目も8分音符に分割しています。
リズミックな発展
ここからはリズミックな発展のさせかたです。
Ex.1のベースラインの3拍目を8分音符に分割。 そして、4拍目をシンコペーションして弾いています。 これだけでもかなりトリッキーに聴こえると思います。
Ex.4の4拍目を8分音符に分割しています。
Ex.5の3拍目へのシンコペーションをせず、8分音符で全部弾いてみます。
Ex.5のベースラインの1拍目を8分音符に分割しています。
Ex.7のシンコペーションを活かして変化を付けたベースラインです。 これをまた少しずつ変化させていきます。
Ex.8のベースラインの変形です。 4拍目を8分音符にしました。
Ex.8の4拍目のシンコペーションを4分音符にしています。
Ex.10と同じリズム型ですが、選択しているコードトーンを少し変えています。
Ex.11の4拍目を変化させて8分音符でのシンコペーションのみにしました。
Ex.1のベースラインの4拍目をシンコペーションしたラインです。
ということで、Guaracha(ワラチャ)の様々なベースラインを紹介してきました。 この他にも色々なアプローチの仕方があると思いますので、 様々な音源などを聴いて参考にしていって下さい!
ラテンベース 入門「Guaracha(ワラチャ)のベース」
Guaracha(ワラチャ)はSon(ソン)に似た形で演奏されることが多いので、Son(ソン)をやや速くしたミドルテンポの楽曲と捉えられることが多いです。 19世紀にキューバの風俗を題材としたオペレッタ形式の舞台喜劇が行われていました。 その上演の前後に楽団がDanzon(ダンソン)やHabanera(ハバネラ)を演奏したのですが、その中でうまれたのがGuaracha(ワラチャ)と言われています。 そのため風刺的なものやピカレスク小説(16世紀-17世紀のスペインを中心に流行した小説の形式)などを題材にしたものや、ユーモラスな歌詞が多いです。
Guaracha(ワラチャ)の曲
“Cuidadito Compay Gato”
“Yo no soy Guapo”
“Compay Póngase Duro”
Guaracha(ワラチャ)のベース
Garacha(ワラチャ)でのベースラインについてです。 Son(ソン)やCha-Cha-Cha(チャチャチャ)と類似するものが多いです。
Ex.1
Son(ソン)でも同様のベースラインがありますが、これが基本的なベースラインとなります。
Ex.2
Cha-Cha-Cha(チャチャチャ)でも使用されるベースラインですが、これも典型的なベースラインの一つです。
Ex.3
Ex.2の4拍目を8分音符2つに変化させてものです。 これもCha-Cha-Cha(チャチャチャ)で使用される典型的なベースラインでもあります。
ということで、Guaracha(ワラチャ)について簡単に説明してきました。 ベースラインとしては、Son(ソン)との区別はそうなく単純にテンポが少し早く、前のめりなフィーリングというような解釈で充分かと思います。 色々な曲を聴いて研究してみてください!