ラテンベース入門 「Danzónのベース その1」

Danzón(ダンソン)って?

ラテン音楽には様々なリズムスタイルがありますが、Danzón(ダンソン)もその一つ。
19世紀後半に発達したキューバ音楽/ダンスの形式で、ヨーロッパの宮廷舞踏や民族舞踏やコントラダンサ(Contradanza)、ダンサ(Danza)などから発展して作られたものです。
歴史的な経緯は詳しく書かれている本とかたくさんあるので省略します。
こちらを読んでみると詳しく書かれています。

キューバ音楽

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啓代, 八木, 憲司, 吉田

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録音が残されているキューバ音楽はDanzón以降のもの

20世紀に入るとRumbaやChangüíといったアフロ・キューバン音楽は既にキューバの音楽の中では欠かせないものとなっていました。
しかし、その頃はまだレコーディングをして音源を残すようなことはまだスタートしたばかりだったのでこれらの音楽をレコーディングするようなレコード会社はありませんでした。
なので、録音が始まったのは最初にDanzón、次にSonというように行われてきました。
記録の残っているのはDanzón以降の音楽だけとなります。
しかし、これらの初期の録音を聴くとRumbaやChangüíといったアフロ・キューバン音楽の影響がしっかりと聴けます。

使用されていた低音楽器

弦楽器のベース(ウッドベース)がアンサンブルの定番となったのは、1920年代半ばのことです。
それまでは、ボティーハ(Botijas)やマリンブラ(Marimbula)という低音楽器が使用されていました。
 (こちらの記事に紹介しています。)
ダンソン(Danzón)の場合はTubaやオフィクレイド(Ophicleide)といった金管楽器でベース・パートを演奏していました。

Danzónの重要性

ラテン音楽の歴史に興味がなくても、ラテン・ベーシストにとってダンソン(Danzón)の基礎知識と感覚は必須となってきます。
ダンソン(Danzón)はクラーベを元に作られた最初のキューバ音楽のスタイルだということも大きな意味があると思います。
ほとんどのダンス・バンドやラテンジャズバンドのレパートリーには、何らかの形でダンソン(Danzón)への敬意が込められています。

Danzónの魅力

初期のダンソン(Danzón)は、はっきり言って録音の品質が悪いので古臭く聞こえてしまいちょっと聴くのが大変かもしれません…
とはいえ、聴いてみるとそこには100年ほど前の録音からラテン音楽の歴史を知る上で多くの発見があります。
当時においては、これが最先端の音楽であって現在に続くラテン音楽の基礎になっていたということは忘れてはいけないでしょう。
歴史的に古いジャンルを理解しようとする時、なるべくオリジナルの音源を聴いて当時に流行していたであろう音楽を聴くのがおすすめです。

現在ハバナの郊外などで演奏されている観光客のチップ目当てで演奏されているセッションと、1920年代にはは違法とされていた打楽器などを交えたり、当時としてはエッジの効いた独創的で物議を醸したような状況で聴くセッションでは全く趣が異なってくるわけです。
これらの録音からは音質の悪さを補って余る激しいエネルギーが感じられます。

Son,Son-Montuno,Mambo,Charangaの録音については上記の通りなのですがそれより古くなる初期のダンソン(Danzón)の録音については少し注意があります。
1920〜1940年代のダンソン(Danzón)の録音は単にノイズが多いだけではなくて、細かい音像が不明瞭でよく聴こえません。
特に我々にとって重要なベースパートはかなり聴き取りにくいです。
しかし、想像力を働かせてみるとオリジナルの演奏の激しさを感じ取れるはずです。
全てを聞き取ることは難しいですが、エキサイティングなことが起こっていたということは感じ取れるはずです。

Danzón(ダンソン)の聴くべき音源

前述の通りオリジナルの演奏を聴くべきとは思うのですが、やはり最初から楽しんで聴くには少し厳しいのも事実です。
っていうことで、現代のDanzónの録音から遡って聴いていくのが良いかなと思います。
まずはこちらが最適化と思います。
“Mi Gran Pasion” Gonzalo Rubalcaba(1986年)
ラテン・ジャズのアルバムですが、Danzónへの敬意が込められたアレンジで現代のミュージシャンが省略してしまうようなDanzónの複雑なフォーマットやディティールをしっかりと全て含んでアレンジされています。

これで少しDanzónに馴染んできたら次は1959年のこちら。
Fajardo son Flauta y Orquesta “Danzones Completos para Bailar”
この頃には既にダンソン(Danzón)は歴史的な遺物となっていましたが、情熱的に演奏されてかつ録音の質も良いです。
Cachao “La Leyenda”
ベーシスト的にはやはりCachaoの作品も外せませんね。
Antonio Arcaño y Sus MaravillasDanzón Mambo
Apple MusicにはなかったのでAmazon musicのリンク貼りました。
更に遡って1940年代のAntonio Arcañoの作品です。
しかし、ArcañoのOrquetaが演奏しているのは「Danzón-Mambo」です。
曲の最初の部分だけが純粋なDanzónで、後半はMamboのセクションとなります。
これについては次の記事で少し解説しています。

初期の録音

“Hot Music from Cuba 1907-1936”
“The Cuban Danzón: Before There Was Jazz: 1906-1929”
“Early Cuban Danzon Orchestras 1916-1920”

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アーティストVarious Artists

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ということで、準備ができたところで初期の録音を聴いていきましょう。
これもApple Musicにはなかったりなんだりなので、発見できたものを貼ってきます。

近年の再現録音

“The Cuban Danzón: Its Ancestors and Descendents” (1979)
Rotterdam Conservatory Orquesta  Típica
“Cuba: Contradanzas&Danzones”(1997)
この2つのアルバムはクラシックの古楽のようにオリジナルの楽器を使って、なるべく当時を忠実に再現して行われた近年に録音されてものです。
クリアな録音なので当時を知るのにとても参考になると思います。

Danzón(ダンソン)の曲構成

Danzón(ダンソン)は従来、大きな編成のブラスバンドで書き譜での譜面を読んで演奏していました。
しかし、この頃もベースパートのチューバはコードを見ながら耳で判断しながら演奏することが多かったようです。
このことからもDanzón(ダンソン)を演奏する際には、この独特な構成とセクション間のブレイクなどを特に意識して演奏するとよいでしょう。
大まかなDanzón(ダンソン)の曲構成について解説していきたいと思います。

①A.パセオ(Paseo)
Danzón(ダンソン)でのイントロのことをパセオ(Paseo)と称します。
大抵は16小節で構成されています。

②B.Fluteによるテーマ演奏
それから、フルートによってテーマのメロディを演奏します。
Parte de(la)flautaとも称されます。

③A.パセオ(Paseo)をもう一度演奏
再びパセオ(Paseo)を演奏します。

④C.Violinによるテーマ演奏
ヴァイオリンのトリオでテーマのメロディを演奏します。
Parte del violínとも称されます。

⑤Ending
エンディングはいくつかお決まりのパターンがありますのでこれらは次の記事にでも紹介したいと思います。
エンディングにパセオ(Paseo)を再びやったり、パセオ(Paseo)とお決まりのエンディングパターンの組み合わせだったりとが考えられます。

ということで、曲のフォームは
ABAC
or
ABACA
というのがクラシカルな初期Danzón(ダンソン)のフォームとなります。
クラシックのロンド形式と似たような感じですね。

しかし、後期になるとCセクションの後に
Estribilloやモントゥーノ(Montuno)
のセクションが加わってきます。

ここはDanzon de Nuevo Ritmo(ダンソン・デ・ヌエボ・リトモ)と呼ばれる後にマンボ(Mambo)やCha-Cha-Chá(チャチャチャ)へと発展されるセクションとなります。
このセクションでフルートやヴァイオリン、ピアノがアドリブ演奏をします。
このDanzon de Nuevo Ritmo(ダンソン・デ・ヌエボ・リトモ)については次回の記事で解説していきます。

Aセクション Paseo(パセオ)について

AセクションにあたるPaseoは、Danzón(ダンソン)の特徴的な部分で様式美的なパートでもあるのですが、それだけではなくダンスにおいても重要なセクションとなります。
Roberto Borrell(ロベルト・ボレル)が制作した教則ビデオ"Un Trio Inseparable"によるとダンサーはAセクションの間のブレイクは立ち止まって体を揺らしたり、扇いだりしていて次のセクションが始まると合図で動きを再開します。

Danzón(ダンソン)のAセクションは、Danzón(ダンソン)を再現するのに最も重要なコンセプトとなる部分となります。
Danzón(ダンソン)に限りませんが、ラテン音楽でのベーシストの役割はダンスのステップやスタイルと密接に関係しているのです。

アレンジ上も出だしでフックとなるセクションなので、個性を求められる部分でもある一方で厳格なDanzón(ダンソン)としての様式美も求められるのでアレンジ上難しいセクションとなります。

Danzón(ダンソン)のリズム

Danzón(ダンソン)の雰囲気を覚えるには、バケテオ(Baqueteo)と呼ばれるGuiroのパターンを覚えるのが良いと思います。

Danzón(ダンソン)において重要となるリズムは、シンキージョ(Cinquillo)、トレシージョ(Tresillo)と称されるアフリカのリズム。
そして、クラーベの概念をはじめて体現したリズムとなるバケテオ(Baqueteo)です。

Cinquilo(シンキージョ)

シンキージョ(Cinquillo)

Tresillo(トレシージョ)

トレシージョ(Tresillo)

Baqueteo(バケテオ)

バケテオ(Baqueteo)
ダンソン(Danzón)はクラーベを元に作られた最初のキューバ音楽のスタイルです。

基本的なパターンはギロ(Guiro)で演奏されます。
2小節パターンでシンキージョ(Cinquillo)に4分音符4つのパターンを加えたバケテオ(Baqueteo)というパターンで構成されています。
バケテオ(Baqueteo)は、シンキージジョ(Cinquillo)の部分がクラーベの3サイド、4分音符の部分がクラーベの2サイドとなります。
バケテオ(Baqueteo)はクラーベのリズムを装飾したリズムとも言えます。
バケテオ(Baqueteo)のリズムはAセクションの一部分と、Montunoセクション以降を除いた全てのセクションで演奏され続けます。
Aセクションも基本的にはバケテオ(Baqueteo)を演奏するのですが、少し特別な決まりがあります。
下記の譜例のようにシンキージョ(Cinquillo)が三回連続して演奏され、ティンバレスのフィルインと共にブレイクが入ります。
このお決まりのアレンジがダンソン(Danzón)のAセクション独特の雰囲気を出しています。
このようなブレイクがダンソン(Danzón)のAセクションには必ずあります。
ジャンルの様式美に沿った(=Típico)サウンドにするには、リズムブレイクのアレンジの選択肢は限られたものとなっていてほとんどが上記譜例のようなものになります。
休符部分にフルートなどのピックアップフレイズが入ることになります。
このお決まりのアレンジに負けないように、最初のフレーズなどにアレンジャーは工夫を凝らして様々な独創的なフレーズが生まれていったわけです。

Aセクションでのベーシストの対処方法

ベーシストがどのようにAセクションを演奏するかという、典型的な例がこちらです。
Roberto Borrellは、Danzónのダンスビデオの決定版「Un trio inseparable」の中で、Danzónのダンサーは伝統的にAセクションの途中で立ち止まり、体を扇いだり浮かしたりしていることを説明し、実演しています。

Aセクションへ戻るときのブレイク

「A-B-A-C」や「A-B-A-C-A」といった構成で、BセクションもしくはCセクションからAセクションへ戻る際には下記のブレイクがよく用いられます。
3:00〜に同様のブレイクがあります。

Danzón(ダンソン)でのクラーベの向きについて

全てのDanzónのAセクションは、クラーベの向きがの3サイドから始まっています。
従って、Bセクション、Cセクション、"Estribillo(=コーラスのパートまたはモントゥーノセクション)が2-3となる場合クラーベの流れがおかしくなってしまいます。

でもですね、1920年代には、クラーベの向きについてのルールや法律、議論(戦争とも言えるwww)はまだ生まれていなかったので、セクション間のクラーベの向きの反転というのは気にしないで大丈夫です。
それぞれのセクションを独自の構成として学び、セクションごとのクラーベの感覚を合わせていけばOKです。

ダンソン(danzón)のベースライン

ダンソン(Danzón) Bass Ex.1
まずこれが伝統的なダンソン(danzón)の基本的なベースパターンです。
前半が2分音符2つ、後半がトレシージョ(Tresillo)のリズムをなぞって演奏されています。
ダンソン(Danzón) Bass Ex.2
パーカッションで刻まれているバケテオ(Baqueteo)のパターンをなぞるような形でもしばし演奏します。
これらのようなパターンを基本に自由に演奏してください。
テーマのメロディに沿ってみたり、カウンターメロディのようなアプローチをとることもしばしあります。
ルートは提示しなければなりませんが、あまりリズムを刻み続けるといようりはチェロのパートを弾いているような感覚が近いかなーと思います。
ABEMA

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